インプラントは誰でも受けることができますか?

インプラントは外科治療であるため、お口の中の状態だけではなく全身の状態も考慮して安全に治療をする必要があります。そのため全身疾患をもつ患者さんは、インプラント治療を断れるケースも少なくありません。
大学病院口腔外科での治療も経験してきた当院院長が、全身疾患の患者さんのインプラント治療について解説します。

インプラントと全身疾患

インプラントを受ける患者さんは高齢の方が多くなります。高齢の方の多くが高血圧、心臓疾患、脳血管障害、糖尿病、金属アレルギー等何らかの全身疾患を有しています。当院院長は長年、大学病院口腔外科で、入院患者さんの全身疾患を内科医と協力してみてきた経験がありますので、全身的疾患に対する深い知識を持っています。従って、全身疾患を有する患者さんの場合は、内科医と綿密に連絡を取り合って、連携して現在の状態を把握し、全身状態がコントロールできたところで手術に進みます。コントロールができなければ手術は諦め、他の方法をお勧めすることもあり得ます。このように、全身疾患を的確に評価することにより計画を進めますので、心配なく手術を受けられます。

高血圧の場合、降圧剤で血圧がコントロールされていれば、術中の血圧に注意しながら手術を受けられます。但し、手術時の緊張、局所麻酔剤の影響によって、手術中平均20mmHgほど血圧が上昇すると言われているので、笑気吸入鎮静法を使用して血圧が安定するようにします。

狭心症等の心臓疾患がある場合は、血液をさらさらにする抗血栓薬を投与されていることがありますが、現在のガイドラインではこの薬を飲みながら手術をすることが薦められていますので、内科医と相談しながら手術に進みます。心筋梗塞をされた方は、発症後原則6か月は手術はできません。それ以降についてはかかりつけ医と相談しながら計画を立てる必要があります。

糖尿病の場合、問題になるのは、まず、手術直後の食事量と、血糖降下薬やインシュリンの量との関係があります。手術直後数日間は食事量が減少傾向になることがありますが、この場合薬が効きすぎて低血糖を引き起こす恐れがあります。そういうことがないように、術前かかりつけ医と十分なコンタクトを取って薬の量を計画します。更に糖尿病の場合、免疫力が低下しているため感染しやすい状況にありますので、抗菌薬を的確に使って術後の感染に注意をはらうことが必要です。また傷が治りにくい状況でもありますので術後、創傷治癒を厳密に監視することが重要になります。一般的にHbA1cが7.0%未満であれば糖尿病でも注意を払いながら手術を受けることができると言われています。

骨粗しょう症では骨密度が低下し骨の強度が弱くなるので、理論上はインプラントと骨との結合が得られにくいと考えられますが、実際上はあまり問題になった方はおられません。それよりも問題なのは、骨粗しょう症治療薬のビスホスホネート製剤を服用している場合です。この薬を服用していると、ビスホスホネート関連顎骨壊死(BRONJ)と言って、重篤で難治性の顎の骨の疾患を来すことがあります。このため、服用を中止して3か月は手術を延期する必要があるとも、或いは休薬の必要はないとも言われており、学会の中でも未だ議論がある状況です。従って、かかりつけ医と十分相談する必要があると同時に、インプラントを行うメリット、デメリットを十分に患者さんに説明し、納得していただき、場合によっては他の方法を選択することもあります。

金属アレルギーですが、高齢者に限らずあらゆる年代の方にも見られます。多くは水銀、ニッケル、スズ、コバルトクロム、パラジウム等に対してアレルギー反応を起こしアトピー性皮膚炎、難治性の掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)等を引き起こします。しかし、インプラントには金属アレルギーを引き起こす可能性が極めて低いチタンが使われており、また上部構造(差し歯)は金属ではなくセラミックで作ります。いずれにしても、金属アレルギーの場合は、皮膚科でパッチテストを行っていただき、原因となっている金属の種類を同定します。

このように、高齢者、特に全身疾患のある方に対しては、医科歯科連携のもと、医師と密接なコンタクトを取りながらインプラント計画を進めていきます。

インプラントと顎の骨の薄さ

「顎の骨が薄くて手術ができない」と言う声を聞きます。人間の顎は、上顎と下顎からなります。

上顎からお話しますと、上顎には鼻の横左右に副鼻腔の一種の上顎洞があります。これが発達していたり、或いは歯が植わっていたところの骨(歯槽骨)が高度に吸収されて薄くなった場合、上顎洞と骨が近接してしまい、「骨が薄い」ということになります。その場合、少なくとも10㎜必要な長さのインプラントが入れられなくなりますが、これを解決するには、骨の厚さが6、7㎜以上ある場合はソケットリフトと言って、骨側から上顎洞に向かって骨を入れて押し上げる手術法を取ります。骨の厚さがもっと少なく3㎜以下であれば、サイナスリフト(上顎洞挙上術)と言って、顎の側面に穴を作って上顎洞の粘膜を上に押し上げて骨を移植する手術があります。手術侵襲はソケットリフトで少なく、サイナスリフトは多くなります。従って当院では可能な限りソケットリフトを選択するようにしています。

下顎では、骨の中やや下側に下顎管と言って、神経、血管が通っており、これが損傷されると、出血や術後の知覚麻痺等を引き起こす恐れがあります。歯が植わっていた骨(歯槽骨)の吸収が強くて、下顎管までの距離が短い場合、「骨が薄い」ということになります。この場合、吸収した骨の空間に骨を移植して骨の高さを増やす手術をすることにより、インプラントを埋め込むことが可能となります。下顎骨の幅が不足する場合も、同様に骨の移植を行うことにより、インプラントを埋めこむことができます。どちらも「骨造成術」と言います。

近年では、移植する骨は、人工骨を選択することが多く、自分の骨を採取して使っていた時代より、格段に患者さんの肉体的負担は減っています。

インプラントと歯周病

歯周病が原因で歯がグラグラになり、抜歯してインプラントを希望する方も多く見られます。歯周病は、歯のブラッシングを怠ったためプラークが歯の周囲に残り、ここに歯周病菌が繁殖して歯周組織の炎症を引き起こす病気です。

従って、口腔衛生管理を確立して、正しいブラッシングを確実に行えるようになったことを確認してからインプラントの計画を立てます。また術後、定期的なメンテナンスに通っていただいて厳密な管理を行う必要があります。そうでないと自分の歯と同じようにインプラント周囲炎になって、インプラントがダメになる可能性もあります。

歯周病と関連してこれを悪化させる歯ぎしりがあります。通常の噛む力60㎏に対して、歯ぎしりの時に歯に作用する力は250~300㎏と言われており、これがインプラントに定期的に加わればインプラントが脱落する恐れがあります。インプラントを入れた後、マウスピースを入れて異常な強い力からインプラントを保護するようにします。

投稿日:2022年11月2日  カテゴリー:インプラント

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